導入事例
美作地区消防指令センター
「Smart-telecaster」で救える命を増やせ!
走る救急車から病院の医師に映像を送り、
傷病者の救命率を高める取り組みがスタート
- 映像で患者の容体を正しく把握し適切な処置や搬送先の指示が可能に
- 一刻を争う救急救命の現場で傷病者の救命率を向上
- 心電図を伝送し医師の所見を参考に致死的な不整脈を早期に判別
指令業務の共同運用で体制を強化 美作地区消防指令センターが設立
美作地区消防指令センター(以下、指令センター)は、地区内の119番通報の受付、指令業務などを集中一本化した、いわば消防の司令塔である。岡山県北部の津山市および周辺5町を統括する津山圏域消防組合と、隣接する真庭市、美作市が共同で指令業務を担うことを目的に、2012年4月に設立された。
119番通報を受付けると、地点や災害状況を把握し、状況に応じた消防救急隊の出動指令から他の署への応援要請に至るまで、3地区から派遣された指令員が集中処理することで、施設設備の高度化と効率化を最大化し、美作地区全域の消防防災・救急救命体制の強化を図る。中四国地方で初となる消防指令業務の共同運用の試みは、他の自治体からも大きな注目を集めている。
指令センターでは、最新システムと職員の集中配置によって、災害に対する迅速で的確な指令業務を実現するとともに、美作地区の救急搬送情報を一元化し、最適な医療機関の選定や広域の救急支援体制づくりを進めている。
その活動を支えているのが、ソリトンシステムズの映像中継システム「Smart-telecaster」を活用した「現場画像伝送装置」である。重篤な患者用の高規格救急車に据え付ける形で搭載され、3地区の消防署に1台ずつ配備されて実運用段階に入っている。
また、指令センターの運用開始とともに、真庭市と美作市では指令本部が消滅するため、救急車用とは別にSmart-telecasterを3地区に1セットずつ配備。現場の署員が災害現場の映像を中継することで2市と情報を共有し、応援要請など的確な指示ができるようにした。
岡山県では、総務省消防庁による消防指令業務の共同運用推進の通知に従い、2006年度に県内14消防本部で研究組織を立ち上げ検証を行ってきたが、2009年7月から美作地区3消防本部による共同運用研究会が設置された。
指令センターの整備事業を進める中で、現場画像伝送装置の活用を検討したきっかけについて、津山圏域消防組合 消防本部 参与 消防監を務め、指令センターの設立プロジェクトを主導してきた池田 守孝氏は次のように説明する。
「救急医療の現場で映像を活用する効果を早期に指摘し、強く訴えておられたのが津山中央病院の救急救命センター長です。そこで私たちも映像伝送装置を導入することの効果や必要性を3消防本部と協議し、映像伝送技術の仕様策定に関する作業部会を立ち上げました。国の実証実験の内容を基本として、救急車内の複数の映像の同時送信や、リアルタイムに音声の相互通話が可能なことなどを入札の条件にし、詳細に検討しました」
高精細な映像でリアルタイムに指示 確認時間の短縮で救命率を向上
具体的な運用方法は次の通り。まず、指令センターに119番の通報が入ると救急チームに出動命令が下り、患者が重篤だと予想される場合は、Smart-telecasterが搭載された救急車を優先して出動させる。同時に、救急救命センターと連絡を取り、医師に待機を要請。
患者を収容した救急車内では、患者の様子を可動式のCCDカメラで撮影し、救急救命センターへ伝送。映像を見た医師は患者の容体や怪我の大きさなどを視覚的に把握することで、必要な治療が受けられる病院への手配を行う。同時に、病院に搬送するまでの間、救急救命士に対し的確な処置をアドバイスする。
「美作地区では現在、現場での救急救命処置の選択、適否、病院選定などに対して医師がリアルタイム、あるいは事後検証で助言や指導を行うことにより、傷病者の救命率と予後の回復向上を目的とした『地域救急医療メディカルコントロール』を推進しておりますが、Smart-telecasterの映像が有効に活用できるのではないかと考えています」(池田氏)
音声だけでは表現できない患者の状態を映像で把握し正しい判断材料に
「従来、医師への説明は電話による音声情報のみに頼っていたため、患部の状態や生体反応などを言葉で正確に表現することが難しく、また時間もかかっていました。Smart-telecasterが導入されてからは、CCDカメラで患部の映像を鮮明に撮影することができるので、医師は言葉からの情報だけではなく映像を見て客観的に患者の状態を把握できます。これにより正しい処置の指示や搬送先を変更する際の基準にすることが可能になりました。この差は大変大きいと感じています」
そう語るのは、津山圏域消防組合 中央消防署第一係の消防士長で、救急救命士の資格を持つ山本 渉氏だ。患者の容体によっては、ドクターヘリに出動を要請し、より設備の整った県南地域の病院まで搬送する必要があるため、リアルタイム映像で搬送先の判断が適切にできれば、救命率向上につながるという。
「重要なのは、一刻も早く患者を適切な病院に搬送することです。命に別状がなくても時間が経つほど患者の状況は悪化し、個人的な主観だけでは判断できない症例も数多くあります。専門家である医師に適切な判断を仰ぐことで、転院搬送を最小限にし、生存率を高めることができるのです」と話す山本氏は、その場合の“目と耳”となるのがSmart-telecasterの映像・音声の伝送技術であり、医師と判断を共有できる安心感は非常に大きいという。
救急車の室内にはさまざまな医療機器が備えられており余分なスペースは少ないため、ソリトンシステムズでは専用ケースを新たに設計してSmart-telecasterを隙間スペースに設置するとともに、心電図モニター撮影用に可動式のCCDカメラを設置して、患者の映像と心電図をマルチ表示できるよう工夫を重ねた。
「心電図の波形から致死的な不整脈の有無を判別するのは、何名もの救急患者を搬送してきた私たちでさえ、難しいのです。そのため、経験豊富な医師と一緒に心電図を確認し所見をいただくことができれば、これほど心強いことはありません」(山本氏)
市民の生命財産を守るツールとしてSmart-telecasterを積極的に活用
現在は、津山圏域、真庭市、美作市の3市それぞれに、Smart-telecasterの送信機が搭載された救急車が1台ずつ、可搬式Smart-telecaster送信機が1セットずつの配備だが、今後はその数を増やしていく計画だ。最終的には全ての救急車で映像中継が可能な状態にし、マルチ画面にビデオ喉頭鏡や位置情報、また血圧値や血中の酸素濃度などのバイタル情報を加えることで、より的確に状況を判断し、更なる救急救命率向上の効果を狙いたいという。
「Smart-telecasterの高精彩で短遅延の映像中継技術は、多くの場面で利用できる可能性を持っています。それをどう使いこなすか考えることが救急救命士である私たちの課題でもあります」という山本氏。
また、将来的には病院の医師が救急車に搭載したカメラを自由に操作できるようにして、映像活用をさらに拡大していくことが理想と話す池田氏は、「Smart-telecasterは市民の生命や財産を守るツールとして、非常に有効なシステムになると考えており、 積極的に活用を進めていくつもりです」と語り、指令センターの各機能と現場画像伝送装置との連携を高めて、万全の指令体制を構築していく考えだ。
お忙しい中、有り難うございました。