導入事例
三井造船株式会社
働き方改革
BYODを活用したモバイルワークシステムを導入し
いつでもどこでも安心して働ける環境を提供
- ビジョン達成のためITを活用しモバイルワークシステム導入
- 従業員へ押し付けないワークスタイル変革
- 働き方の改革とセキュリティリスクの低減を実現
三井造船は、社内外・国内外の連携や協業を強化し、強力な技術開発力で企業を成長させる「MES Group 2025 Vision」を遂行するため、ITを活用したワークスタイル変革が必要と考えた。同社では、BYODを活用したモバイルワークシステムを導入することで、不要なリスクを減らし、従業員が安心して働ける安全で効率的な環境を提供することに成功した。
ビジョンの達成に必要な、安全で効果的なIT基盤
2017年に創立100周年を迎える三井造船は、船舶や海洋機器の製造を中心に、海洋事業に関連した舶用エンジンやコンテナ用岸壁クレーンなどの機械・システムの製造も手がけている。石油化学プラントの建設・運転も得意分野の1つで、昨今では太陽光発電やバイオマス発電などの再生可能エネルギー分野での施設設計・建設にも注力している。
同社は2015年に「MES Group 2025 Vision(以下、2025ビジョン)」を掲げ、全社的に取り組むべき領域として、海上物流・輸送や環境・エネルギー、社会・産業インフラを挙げ、事業の付加価値向上や構造変革、周辺サービスの拡大・強化を図り、さらなる成長を目指すとしている。
取締役 常務執行役員 企画本部長、CISO 西畑彰氏によれば、このビジョンの達成において重要なキーワードが「連携・協業」「グローバル化」「技術開発の強化」であるという。
「社内やグループ企業のみならず、国内外のパートナーや取引先、ひいては個々の従業員と企業とが、強力に連携・協業することが重要です。そして、強力な技術開発力を身に付け、グループ全体が一丸となって“社会に価値をつくりだすエンジニアリングチーム”を目指しています」(西畑氏)
この戦略を実践するうえで支えとなるのがITだ。ITを積極的に活用し、従業員が柔軟に働ける環境を提供することで、戦略の遂行を後押しする。ただし、そうした利便性は安全なIT基盤があってこそである。そこで同社は、西畑CISOをトップとする情報セキュリティ体制を構築し、セキュリティ対策の強化を図っている。
「ITが安全に利用できなければ、安心して業務を遂行できません。情報セキュリティは、重要な経営基盤の1つだと考えています。他の事業と同様に、セキュリティ対策についても細かにロードマップを策定し、ビジョンの達成に向けて全力で取り組んでいます」(西畑氏)
安全で便利なITが安心して働ける環境を作る
三井造船 企画本部 経営企画部 情報セキュリティ推進室では、2025ビジョンの達成に向けて、安全で効果的な情報共有の仕組みをITによって支援する方法を思案した。それはネットワークや基幹システム、ストレージなど多岐に渡った。
その1つが、モバイルワークシステムの導入だ。まず、従来から情報基盤の1つとして利用していたグループウェアへ、全社的に外部からアクセスできるようにすることが考えられた。メールやスケジューラなどの利便性を向上すれば、コミュニケーションの幅が広がることは間違いない。また、メールやグループウェア以外の複雑な作業も社外で行いたいというニーズがあったため、VDI(仮想デスクトップインフラ)のような環境の実現も検討された。
ところが問題は、従業員が使用する端末だ。三井造船ではモバイル端末を社給しておらず、以前から個人のスマートデバイスを使用したシャドーITの可能性について危惧していた。不要なリスクを抱えるよりは、十分なセキュリティ対策を講じて、積極的にBYOD化を推進したほうがよいと検討していたところだった。
そこで三井造船では、大きく2つの技術を導入し、BYODによるモバイルワーク化を推進した。
1つは、個人のデバイス上で業務領域とプライベート領域を安全に分離する「セキュアコンテナ」だ。これにより、個人のスマートデバイスからメールやスケジューラへ安全にアクセスする手段を提供した。さらに、社外で複雑な作業を行える環境として、自席のPCへ外部からアクセスできるようにする「リモートデスクトップ」を導入した。
いずれも、複雑で高価なシステムを導入することなくモバイルワーク環境を提供でき、運用負荷も小さい。その簡便性と安全性が、三井造船のニーズにマッチしたのだ。
現在では、自席PCへリモートでアクセスできる環境ができたため、社外で利用するPCにツールをインストールしてよりフレキシブルに業務を継続する従業員も出始めている。働き方の多様化を実感するユーザーが増えつつあるとのことである。
従業員へ押し付けないワークスタイル変革
ただし三井造船では、単にモバイルワーク環境を提供するだけで、従業員が柔軟に安心して働けるとは考えていなかった。情報セキュリティ推進室長の徳永祐一氏は、BYODの採用が企業側からの押し付けにならないことを重視したという。
「BYODを採用すると、業務とプライベートがあいまいになり、労務上の問題が発生する恐れもあります。私たちはこの問題を真摯に受け止め、まずは部分的な試用を開始し、人事部門や労働組合との話し合いをしっかりと行うことから始めました」(徳永氏)
徳永氏は、まず200名ほどからBYODの運用を開始し、使用感や安全性の確認、各部門との調整などを1年ほどかけてじっくりと行っていった。そして一般公開の際は、利用は希望者の申請によるものとして、企業側から押し付けないようにと配慮した。また逆に、一般的な手続きと同じように申請システムへ追加し、必要を感じればすぐに使えるような仕組みも設けた。
モバイルワークの推進を担当した情報セキュリティ推進室 課長補佐 小川展弘氏は、「公開すると同時に多数の社員が利用を申請し、急速に普及していきました。特に外出の多い営業部門などでは、部門全員が手を挙げるというようなこともありました。当初こそ安全性などについての問い合わせもありましたが、利用についてはまったく問題がないようで、ほとんど手間がかかりませんでした」と述べる。
三井造船では、モバイルワークを推進するため、システムの部門負担はゼロとした。安全かつ便利であることを強調し、社員が安心して業務を遂行できる環境を提供している。
「社員としてのセキュリティリスクを軽減し、安心して効率よく働ける環境をITによって提供することが、私たち情報セキュリティ推進室の使命です。この新しいモバイルワークシステムによって、2025ビジョンの実現は強く推進されることでしょう」と、情報セキュリティ推進室 主管 藤井秀行氏は述べている。
紙の手帳では管理が限界 グループウェアも使いにくい
林利昌氏がチーム長を務める機械・システム事業本部 社会インフラ統括部 営業グループ 海外営業チームは、海外の橋梁を中心に手掛け、建設の営業や計画、設計、工事やサポートなど、国内外の事業者と連携して幅広い業務を一手に引き受けている。
「私たちは、海外での事業が中心となるため、国内外に飛び回っていることがほとんどです。さまざまなプレイヤーが関わるため、コミュニケーションを密にする必要もあります」(林氏)
新しいシステムが導入される以前、林氏は手帳を用いてスケジュール管理を行っていた。グループウェアが便利なのは承知していたが、社外からの利用が限定されており使いにくかったからだ。しかし手帳では、事業が順調であるほど業務が煩雑化するため管理しにくく、他のスタッフとの連携が取りにくいのも問題だった。
また林氏は、ノートブックPCや書類など、出張の際に持ち運ぶものの多さにも閉口していた。橋梁建築に伴う業務には、さまざまな書類や図面が必要となる。しかし、安全性を確保しつつ、利便性を高めるのは難しい。いつも大きな荷物を持ち運び、面倒に感じることも多かったという。
スマートフォンをフル活用 出張や通勤も身軽に
セキュアコンテナによって安全性を保ちつつ、メールをすぐにチェックしたり、即答したりできるようになったことは、営業担当者である林氏にとって大きな効果だ。
「ノートブックPCを持っていても、移動中や会議中など、開くことすらできない場面は多々ありました。今では、スマートフォンでメールが届いたことがすぐにわかりますし、ちょっとしたメッセージをすぐに返せます。情報の入手が早いため顧客と話しやすくなり、待たせることも少なくなりました」(林氏)
ビジネスの機会が多い東南アジアなどでは、未だに通信状況が悪い地域も少なくない。新しいセキュアコンテナは、オフラインでも作業が可能な機能が搭載されているため、「利便性を損ねることが少ない」と林氏は述べる。
リモートデスクトップは、当初こそ社内のPCが外から扱えることを不安に感じることもあったが、小川氏らの説明によって安心して利用できるようになった。
「業務が煩雑なため、いつでもどこでも自分の環境を利用したいと考えていました。リモートで自席PCにアクセスできるようになり、重たいノートブックPCや機密性の高い紙の書類を持ち運ぶ必要がなくなったのは、非常に大きなメリットです。海外企業とのやり取りは時間が不定期なのですが、自宅に資料やデータを持ち帰る必要もなく、安全に作業することが可能です。今じゃ通勤すら手ぶらで、家族が不思議がっていますよ」(林氏)
設計や架設を担当する技術者は、タブレットから自席PCへリモートで接続して図面や資料を表示し、現地スタッフとの打ち合わせに活用しているとのことだ。モバイルワークシステムは、海外ビジネスを支える重要なインフラとして、手放せない存在になっている。
三井造船のモバイルワークへの取り組みは、さまざまな効果を生み出した。無理にシャドーITを利用する必要がなくなり、潜在的なセキュリティリスクを大幅に低減できた。モバイルツールの利用時間は全社で月間4,300時間にも及び、多くのスキマ時間が活用されていることがわかる。三井造船では、モバイルワーク環境の高度化を目指して、さまざまな技術やソリューションを組み合わせていく予定だ。世界中を飛び回る社員のため、さらなるIT環境の強化を図っていくという。
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※本事例は2016年 11月に作成されました。
本ページの内容は作成時の情報に基づいています。