導入事例

旭川赤十字病院

北海道の道北エリアをカバーするドクターヘリによる救命救急医療を強化
iPhoneを利用したSmart-telecasterを導入し、
現場と基地病院間でのリアルタイムな映像情報共有を実現

旭川赤十字病院
  • スマートフォンによる容易な導入と高品質な映像活用が両立
  • 携帯電話不感エリアでも衛星携帯電話を利用可能な運用の柔軟性
  • 現場と基地病院が連携したリアルタイムな診療で患者の治療効果改善に期待

搬送時間短縮と治療開始の早期化で救命率向上を目指すドクターヘリ

旭川赤十字病院は、高度な急性期医療と専門医療を提供する急性期病院としての役割と、北海道北部地域(道北)の地域医療支援病院としての役割を担う基幹病院である。

3次救急を担う救命救急センターは1978年に開設し、北海道で最も古い歴史を持つほか、脳血管疾患では道内では2番目の規模の脳外科専門病院としても知られるなど、高度専門医療から救命救急医療までのニーズをカバーする道北の基幹病院となっている。

さらに、旭川赤十字病院は道北圏唯一のドクターヘリコプター(ドクターヘリ)システムを運用する基地病院としてのミッションも担っている。旭川赤十字病院 副院長 住田 臣造氏は次のように説明する。「ドクターヘリ・システムは、事故・急病や災害発生時に消防機関や医療機関などからの要請に応じて救急用の医療機器を装備したドクターヘリに、医師(フライトドクター)と看護師(フライトナース)らが同乗し救急現場に急行するシステムで、医療機関に搬送するまでの間に救命処置を行うことで、搬送時間の短縮と治療開始の早期化による救命率の向上を目指しています」

ドクターヘリのミッションは3つあるという住田氏。第1は、救急現場にいち早く医師や看護師を派遣して初期治療を早期に開始し、搬送中も継続して治療行為を行うことによる、救命効果の最大化と後遺障害の軽減という医療ニーズの実現。第2に、北海道ならではの目標である地域医療の充実と専門医の不在を補完する施設間搬送の実施。第3が、離島を含め地域から大きな医療機関のある中核都市への陸送による時間的な空白の削減だ。

そこで重要なのが、現場で活動するフライトドクター/ナースと、基地病院で指揮を執るメディカルコントロールドクター(MCDr:迅速な治療が進むよう医療行為の指示・アドバイスや搬送先の調整を行う医師)との連携や情報共有だ。

ドクターヘリ効果を促進する映像活用 撮影方法による特性や機能を比較

従来は、ドクターヘリが現場に到着し、同乗したフライトドクター/ナースが患者への医療処置を行なった後に、MCDrへ携帯電話や無線で口頭による状況報告を行っていた。しかし、フライトドクターとMCDrが現場からオンタイムに診断、治療を共有するのが理想であるが、これまでは、情報共有にタイムラグが生じて受入れ病院側の準備が遅れがちになるほか、言葉による情報伝達のために評価の客観性や表現の正確性を保つことが難しい面があった。

また、仮に旭川医療圏の救命救急センターが満杯の場合は、札幌医療圏や帯広医療圏の救命救急センターに応援を求めて緊急搬送する場合もあり、正確かつオンタイムの情報提供手段が必要とされていた。

さらに、四肢の切断や環境障害など重篤な傷病が発生した場合には、専門のスキルを持った医師と医療設備を備えた医療機関に搬送することになるが、事前に患者の状態を医師に伝え、評価を得た上で搬送の可否を判断しなければならない。そのため従来は、患者の傷病状況を携帯電話のカメラで撮影しメールで送信していたが、あまり手間をかけずもっと効率的な方法が模索されていた。

そこで住田氏が注目したのが、動画像をリアルタイムに伝送できる映像転送システムの活用だった。 音声や静止画などに比べて動画は圧倒的に情報量が多いため、患者の状態を映像で確認できれば、搬送後にどのような治療や準備が必要なのかを客観的かつ迅速に判断できる。また、MCDrもフライトドクター/ナースと共有意識をリアルタイムに保ちながら適切な指示を与えることが可能になる。

2010年ごろからいくつかの映像転送システムを比較検討する中で、住田氏は製品によって特性や機能の目的が大きく異なることが分かってきたという。「ビデオカメラを用いるシステムは、映像は鮮明ではあるものの別途PCも持参しなければならず、ドクターヘリへの機材搬入が難しい上に、医療処置を行っている間は撮影が不可能です。また、スマートフォンを利用するシステムは携帯性や操作性に優れている反面、中には映像の解像度が低く、録画を想定していない製品もありました」

自由な撮影も可能なSTC-Cam MCDrも患者の状態を正確に把握

2013年11月に複数製品のデモを行った結果、ソリトンシステムズの「Smart-telecaster iOS版」(以下、Smart-telecaster)の完成度の高さが注目されたという。

Smart-telecasterも送信側端末「STC-Cam」にiPhoneを利用するが、他のシステムと比べて映像品質が格段に優れており、撮影中も音声通話が利用できるほか、受診映像の録画も可能で、STC-Camを最大12台まで同時接続できる拡張性が関係者の間でも評価が高かったという。また、ドクターヘリが降りるランデブーポイント(臨時ヘリポート)が携帯電話不感エリアであっても、衛星携帯電話を利用すれば運用が可能な柔軟性も、選定の際の大きなポイントとなった。

協議の結果、Smart-telecasterの採用が正式に決定。2014年2月にSTC-Cam 3台で運用を開始した旭川赤十字病院は、フライトドクター/ナースが着用するフライトスーツの胸のネームワッペン部分にSTC-Camを固定し、ぶれの少ない形で撮影できるようにすることで、フライトドクター/ナースを両手を自由に使えるよう工夫した。「STC-Camは傷病者だけではなく、ドクターヘリ内に設置した心電計や超音波診断装置のモニターも撮影することができるので、MCDrも患者のリアルタイムな状態を正確に把握できるようになり、的確な指示が可能になりました」と住田氏は評価する。

一方、受診側のSmart-telecaster基地局「STC-MultiView」は小型のノートPCにインストールし、ドクターヘリ・システムの管制ルーム内でもスペースを占有せず運用できるようにした。こうしたコンパクトさも採用された要因のひとつだったという。

現場とのリアルタイムな診療が実現 患者の状態安定化と治療効果に期待

旭川赤十字病院は、ドクターヘリによる3次救急でリアルタイムな映像中継システムを導入した、北海道・東北で初めての救命救急センターとなった。

Smart-telecasterを導入したことにより、今後、映像を通して現場と基地病院間でのリアルタイムな診療が実現し、患者の状態安定化に向けた治療効果が向上していくと住田氏は予測する。「北海道だけでも多数の重傷傷病者を伴う事故災害事案が年間30~40回も発生している中で、映像で現場の状況を正確に把握できれば、病院側も災害対応レベルを速やかに宣言することが可能となるので、準備や態勢を組むための有効な判断材料となるでしょう」

また、Smart-telecasterの優位性について、スマートフォンにアプリを導入するだけで利用開始できる手軽さと簡単な操作性にあるという。「これがもっと多くの救命救急現場で活用されるようになれば、救命率の向上と後遺症の軽減につながり、社会的損失を最小限にとどめることも可能なのではないでしょうか」

あくまでも医療従事者の理想と前置きした上で住田氏は、道北医療圏の所轄消防機関や医療機関、さらには道北以外の地域医療関係機関などともSmart-telecasterを利用した情報共有体制が構築できれば、広域災害時における救命救急医療やNBC(核・バイオ・化学物質)テロ災害発生時における救急医療への応用も可能になるとの見通しを述べる。

「Smart-telecasterの運用はまだ始まったばかりですが、ソリトンシステムズのサポートや専門家のアドバイスを得ながら、北海道の救命医療にとって重要な情報システムに発展するよう今後も工夫を重ねていくつもりです」と語る住田氏。相性のよいドクターヘリとの相乗効果に大きな期待を寄せている。

お忙しい中、有り難うございました。

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